SBIR AIホスピタル②:小児・周産期医療向けのAI看護記録システムの構築 (国立成育医療研究センター 様)

医療データで命を救う 生成AIで加速する、医療現場の働き方改革。

TXP Medicalは「医療データで命を救う」をミッションのもと、医療現場に根差した生成AI活用の可能性を模索し続けています。急性期医療のプラットフォーム構築や医療データの利活用といった取り組みは、近年、社会全体でも注目されるテーマとなってきました。

近年の働き方改革の推進に伴い業務時間の削減が求められているものの、医療従事者の業務負担は増大の一途を辿っており、その負担の多くが医療文章作成によるものということが明らかになっています。(※1)

本稿では、SBIRを通じ、大規模病院を研究開発のパートナーとして、より現場に即したプロダクトを開発・実証し、社会実装を果たしていくTXP Medicalの取り組みについてご紹介いたします。

※1 病院勤務医の勤務実態調査 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000331107.pdf

今回は笠原群⽣ 病院⻑に、生成AI音声入力アプリ利活用の取り組みおよび今後の展望についてお話を伺いました。

2

これまでの課題について:

園生:本日はよろしくお願いいたします。まず最初に、生成AI音声入力アプリを導入する以前の医師や看護師が担われる記録業務の状況についてお聞かせいただけますでしょうか。

3

笠原:当院は、日本全国から重症患者さんが集まってくる病院です。実際、今も病棟では約60台の人工呼吸器が動いています。非常に緊張感の高い現場で、患者さんが重症になればなるほど診療の複雑性が高くなり、それに伴い、記録業務も増えていきます。さらに、事故を防ぐためには、詳細な記録が必要となります。このため、AI導入前は人海戦術で大量の記録や説明文書作成をこなしており、現場の大きな負担となっていました。

園生: 記録業務と患者さんへの直接的なケアの両立はいかがでしたか。

笠原:そうですね。 我々のAI 導入における一番の目的は、「事務作業を効率化し、その分患者さんとの時間を増やすこと」でした。その点において、非常に有用なツールだと思います。

園生:小児・周産期医療の現場は、一般の診療科とは異なる特殊性も大きいと思います。AIによる記録業務において、難しかった点はありましたでしょうか。

笠原:まず、小児医療では患者本人だけでなく、ご家族も説明対象となり、扱う情報量が圧倒的に多く、個別性や多様性が高いです。さらに、新生児や乳児は状態の変化が非常に早いので、リアルタイムでの正確性が強く求められます。また、「はいはいする」とか、子供特有の言葉や表現がありますよね。そこを音声認識で正確に変換するのは、非常に難しかったです。
ただ、以前は、患者さんやご家族との会話後に入力していましたが、生成AI音声入力アプリのおかげで、コミュニケーションと記録をほぼ同時にできるようになったので、現場の負担がかなり減ったんじゃないかと思います。

3

園生:AI導入にあたって、セキュリティやデータ管理の観点での懸念点はございましたか。

笠原:もちろんです。「医療の安全への影響」「個人情報およびセキュリティ」、そして「現場のワークフローとの適合性」の3点は重要な問題でした。
その一方、現場の負担軽減は待ったなしの状況でした。小児・周産期医療をやめたり、縮小している病院が増える中、担当地区を超えた広域な患者搬送が起こっており、受け入れる患者さんの重症度や複雑性も上がっています。だからこそ、持続可能な医療のためにもDXは必要不可欠でした。

園生:そういった状況の中で、現場での導入はどのように進められたのでしょうか。

笠原: 看護師さんの存在が大きかったです。看護師という職種は、事故を防ぐためにも報告・連絡・相談が重要であり、指揮命令系統がしっかりしていることから、現場での導入に関してそれほどトラブルはありませんでした。また、看護部が中心となって作成された動画によって現場での使用方法などが広がり、自然と活用が進んでいった感覚があります。 院内からの発信は非常に重要だったと思います。

4

共同開発の経緯と、現在に至る道のりについて:

園生:今回、TXP Medicalとの協働を選択し、SBIRプロジェクトへの参画を決断された理由についてお聞かせください。

笠原:参画の理由は、当センターが加盟する日本小児総合医療施設協議会(JACHRI)の小児・周産期医療ネットワークを「横に繋ぐ」ためです。一病院のシステム導入に留まらず、日本全体をしっかり繋ぐプラットフォームを国と共に構築し、将来的な医療の標準化や社会実装を目指す仕組みとして、SBIRプロジェクトの枠組みこそが最適であると確信しています。
また、TXP Medicalを選ぶ理由で一番大きかったのは、「現場感覚を持っている会社」だったということです。
社長自身が現場の医師で、実臨床に即したプロダクト開発を行っており、さらに現場で得たフィードバックを改善につなげてくれる。現場を知っているということが、非常に大きかったです。

園生:実際、現場へ浸透させる中では、試行錯誤があったかと思いますがいかがでしょうか。

笠原:特に小児独特の専門用語や辞書作りが大変でした。あとは本当に初期の頃ですが、多職種間での合意形成ですね。やはり、看護師や一部の医師だけが一生懸命になっても、最終的に現場が納得しないと前に進まないので、現場が主体となる開発という姿勢があったから乗り越えることができたのだと思います。

5

園生:スタッフごとに考えが違うので、医師と看護師間でも温度差がありますよね。当社の現場感を持つ看護師スタッフが看護師の目線で定着支援を頑張ってくれた点も大きかったと思っています。

笠原:おっしゃる通りで、看護師は大変積極的に取り組んでくれたと思います。

園生:今回の実証を通して、当初の想定と異なっていた点や、現場での気づきなどはおありでしょうか。

笠原:現場の課題を解決するということと、患者さんとの時間をもっとつくりたいということを原点にやってきたので、その目標がTXP Medicalと全く齟齬が無かったことからスムーズに進んできた印象です。あえて一点申し上げると、かなり正確性や安全性を考慮しなくてはいけなかったので、想定よりも実装までに時間がかかったということです。しかし、安全性の面からお互いに理解しながら進めてきたとは思います。

園生:国際的なAIモデル自体の進化が思っていたよりも早く、その点を考慮しながら構築を進めてきた日々だったなと思います。実際に病院長としてプロジェクトを推進されていく上で、大切にされてきたことやご苦労などはありましたでしょうか。

笠原:「やれ」と言ったからみんながやるものではなく、ある程度しっかり周知して、納得感をもって進めてもらう必要がありました。そのための正確な情報共有とスピード感、この両立が一番難しかったです。
ただ、最終的にはこれは働き方改革に資することであり、医師や看護師も含めて医療従事者全体の仕事を楽にしていくものだと思っています。
今後、CDSS(臨床意思決定支援)のような流れがもっと機能していけば、現場はさらに変わっていくと思いますし、そこを目指して一緒にやっていきたいですね。

園生:貴院のような医師400人、看護師800人という非常に大きな組織ですと、現場でのアンバサダー的な存在が、同時多発的に組織の関心を高める状態にしていくことが肝になると感じています。

笠原:おっしゃる通りだと思います。その為にも、みんなに「いいね!」と思ってもらうことが大切であり、これからだんだんと広がっていくのではと思っています。

今後の展望と期待について:

園生:今回のトライアルを通して、働き方や日常業務にどのような変化が生まれましたでしょうか。また、今後期待されている変化についても教えてください。

笠原:やはり、AIを使って”医療そのものをどう再設計するか”という視点が重要だと思っています。もっと言うと、社会構造そのものをAIによってどう再設計していくのかということです。日本はもう、社会全体をゼロからAIベースで作り変えるには遅いかもしれません。でも、必要なプロセスやパーツをつなぐ存在としてAIが重要な役割を果たすことはできると思っています。最終的には、“AIと共に意思決定する医療”が実現できるといいですよね。

園生:まさに、そうですね。AIが臨床意思決定支援を行うためには膨大な元データが必要なのですが、ここ数年でようやくその基盤が整い始めてきた感覚があります。
特にICUのような重症医療の現場では、すでに人間が処理できる情報量を超え始めています。モニター情報や血液ガスの変化を見ながらアラートを判断するには、人間の注意力には限界があります。
AIが膨大なデータを解析し、アラートを出したり、リスク評価を行ったりする世界になっていくと思う一方で、そのアウトプットをどう解釈するか、患者さんやご家族にどう説明するかは人間にしかできないので、未来の医療者の役割は、むしろそちら側にシフトしていくのではないかと思っています。

笠原:同感です。最後までAIに任せると、ヒューマンコンピューターインタラクションがなくなる危険性があります。私は外科医なのですが、例えば手術時に、経験のある医師は「ここは危険だな」という感覚をもっていますが、そのような経験に裏打ちされた暗黙知を言語化することは難しいです。AIはそこを言語化して示してくれる可能性があると思っています。
さらに、小児医療は希少疾患が多く、子供は成長していくので変動幅も非常に大きい。つまり、希少性、個別性、そして成長性という三つの特徴があります。子供は小さな大人ではありません。だからこそ、AIが大量のデータを蓄積・解析していくことで、未来の子供たちの医療に大きく貢献できる可能性があると思います。

7

園生:医師単位で希少疾患に対する十分な経験値を積むことはおそらく不可能ですが、AI全体としてデータを蓄積していくことで、希少疾患の診断や治療のサポートが期待できるかもしれません。

笠原:そうすると、医療の標準化ができてきますよね。過疎地でも一定水準の医療が提供できるようになる可能性があります。今は医療の集約化が進んでいますが、その一方で、どうしても取り残される地域が出てきてしまいます。そこでAIのサポートがあると、過疎地でも一定水準の医療ができるようになる。夢みたいな話かもしれませんが、そういう未来につながるプラットフォームになっていくといいですよね。

園生:最後に、日本最大級の小児周産期医療、そして2024年からは女性医療も加わった専門機関として、AIを活用した医療 DX に先駆けて取り組まれている使命感、また他の医療機関へのメッセージをいただけますか。

笠原:AIで医療の再定義をしていけば、もっと標準化できるし、少ない労力でより多くの患者さんを救命できると思います。私は海外の色々なところで手術をしているのですが、日本の医療の質や医師のリテラシーの高さ、技術は、本当に世界に誇れるレベルです。それをAIで完全にリプレイスすることは不可能です。少子高齢化・医師不足・医療従事者の働き方改革という課題に直面しながら、日本の医療が持続可能であり続ける為には、“AIに任せる部分”と“人が担う部分”をどう切り分けるか。そこを考えることが、これから非常に重要になると思います。
コンファメーションのボタンを押すのは人間であるべきですが、もっと他にも我々医療従事者がもっている素晴らしいものは何かということを逆に考えていくことが必要だと思います。

園生:AIは思考的な部分に関しては予想を上回るスピードですが、鉄腕アトムの漫画で描かれていた点滴を入れるロボットのようなクオリティー化した処置は意外と実現できなかったりします。
AIが進化する一方で、最終的に患者さんや家族が求めるのは、「ベストな治療を受けられた」という納得感であり、それには人対人のコミュニケーションが不可欠なのだと思います。
AIが急速に進化している今だからこそ、「人間にしかできない医療とは何か」を、改めて問い直す時代に入っているのかもしれません。

8

SBIR(Small Business Innovation Research)とは

内閣府が司令塔となり、イノベーション創出に重きを置いた研究開発型スタートアップ等に対し、研究開発初期段階から政府調達・民間利用までを省庁横断して一貫支援するプロジェクトです。
弊社はSIP第2期(AIホスピタル事業)からBRIDGEの取り組みに続き、2024年度よりSBIRフェーズ3基金事業に取り組んでいます。
新SBIR制度について(内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局)
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/230316/sanko6.pdf

病院概要

国立成育医療研究センターは、日本最大級の小児・周産期医療を専門とする国立の高度専門医療研究センターです。小児・周産期のすべての病気に対処できる内科系・精神科系・外科系など28の診療科を有し、再生医療領域も含めた研究所、臨床研究センターを併設し、ARO(アカデミック臨床研究機関)としての役割も担っています。患者とその家族に寄り添い、重症または希少疾患のある小児患者やハイリスク妊産婦の最後の砦となる、高水準で「より優しい医療」を提供しています。

お問い合わせ

お問い合わせ内容 *

選択してください

ご連絡担当者様 お名前 *

病院名/会社名 *

メールアドレス *

電話番号

本文 *

SEND
お問い合わせ