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山形市の救急DX実践 ~広域連携と次の一手~ 

山形市消防本部 救急救命課 尾形一 氏|第4回ウェビナー①発表ダイジェスト


サマリー

  • 山形市は「やまがたDXチャレンジ」のもと、行政サービス全体のデジタル化とデータ駆動型行政への移行を2段階のステップで推進

  • 救急分野では令和6年度より、連携中枢都市圏事業として救急医療情報共有システムを導入

  • 病院決定時間は平均7.9分から5.7分へ2.2分短縮、照会2回以内で受入が決まった事案は88.6%から89.7%に増加


救急需要の増加と、搬送先決定に難渋する事案の増加は、全国の消防本部で共通の課題となっています。地方都市では、救急搬送が管轄内だけで完結せず、周辺自治体との広域搬送が日常的に発生している点も、都市部とは異なる悩みです。

管轄人口約26.9万人、1市2町からなる山形市は、「やまがたDXチャレンジ」として市全体のDX戦略を掲げる一方、救急の現場では令和6年度より連携中枢都市圏事業として救急医療情報共有システムを導入。単独の消防本部の取り組みにとどまらず、村山地域7市7町の連携中枢都市圏を軸に、周辺市町の消防本部や医療機関との共同運用に取り組んでいます。

本記事では、市全体のDX戦略と、その中で救急救命課が実践してきた救急DXの具体的な成果・今後の展望についてご紹介します。

(※第4回ウェビナー 全国4都市の実践者が語る「デジタル救命時代の、"いのちを救う"DXを知っていますか?」発表内容より構成)


山形市消防本部 概況

  • 管轄人口:268,577人

  • 管轄面積:473.90㎢(1市2町)

  • 救急隊数:9隊

  • 年間救急出動件数:約13,000件

  • 高齢化率:約31%(高齢者世帯 約30%)


<山形市のDX推進戦略>

やまがたDXチャレンジとは

山形市では、市民や事業者によりこれまで以上の「便利」を届けるため、「やまがたDXチャレンジ」を進めています。目指しているのは単なるデジタル化ではなく、行政サービスをより便利に、より使いやすくし、新しい価値を生み出すことです。

市が掲げる都市ビジョンは「健康先進医療都市」と「文化創造都市」の2つ。健康分野では、スマートフォンアプリや歩数計を利用し、歩数や健康づくりへの参加、健診の受診などでポイントを貯める健康ポイント事業「SUKSK(スクスク)」を実施しています。健康づくりを「頑張るもの」ではなく「楽しみながら続けられるもの」に変えることで、市民の健康寿命の延伸につなげることを目指しています。

2段階のステップで進めるDX戦略

山形市のDXは、大きく2つのステップで進められます。STEP1では、電子申請や施設予約のオンライン化拡充、庁内のペーパーレス化や無線LAN環境の整備など、行政サービスのデジタル化と、さまざまなデータを蓄積できる共通データ基盤の構築を進めます。続くSTEP2では、STEP1で蓄積したデータを活用し、データに基づいて政策を立案する「データ駆動型行政」へと発展させます。

ロードマップとしては、令和8年度から令和10年度までをSTEP1(データ蓄積のための基盤整備・デジタルツール導入・DX人材育成)、令和11年度以降をSTEP2(データ駆動型の政策立案・行政経営への移行)と位置づけています。


<直面していた救急医療の課題>

なぜ現場滞在は長くなるのか

山形市においても高齢化は進み、救急需要は今後も減少が見込めない状況にあります。救急隊は現場から病院へ電話をかけ、病院側が受入れの可否を判断し、必要であれば別の病院へ照会を繰り返すなかで「なぜ現場滞在が長引くのか」「なぜ病院選定に時間を要するのか」という問いが、DX推進の出発点となりました。

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<なぜDXだったか、導入までの歩み>

現場の思いを起点に、丁寧な合意形成を重ねる

救急DXの検討は、「新しいシステムを入れたかったから」ではなく、現場の課題を少しでも改善したいという思いが出発点でした。目指したのは、必要な情報が、必要な人に、必要なタイミングで届く仕組みです。

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令和5年度は、4月に連携中枢都市圏事業として会議体を発足させたのを皮切りに、消防本部間の調整、医療機関への訪問説明、ワーキンググループ会議の開催、予算要求、仕様書作成、プロポーザル、補助金申請と、段階を踏んで準備を進めました。

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導入にあたっては、消防現場・医療機関の双方から「新しいシステムを覚える必要がある」「操作が増えて負担になるのではないか」といった抵抗感や不安の声も上がりました。これに対し、システム開発段階から現場の声を反映して直感的に操作できる画面設計を意識するとともに、説明会に何度も足を運びデモ機での操作体験を重ねることで、不安を一つずつ解消していきました。


<実際の運用方法>

「電話で伝える」から「情報を共有する」へ

救急隊は現場で患者の状態を確認し、画像や音声から情報をテキスト化する入力支援機能を活用しながらシステムへ入力。その情報は受入れ先候補となる病院へリアルタイムで共有されます。病院側は、救急隊が集めた情報をサマリーとして、患者が到着する前から確認できるようになりました。

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広域連携ならではの効果として、周辺病院の受入状況(応需・不応需・交渉中)をタイムラインで一覧共有できる点が挙げられます。特定の病院への照会が集中することを回避し、地域全体で患者を受け入れる体制づくりにつながっています。

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<導入後の成果・実績>

病院決定時間を2.2分短縮

導入前(令和5年4月〜令和6年3月)と導入後(令和7年1月〜令和7年12月)を比較すると、明確な定量的成果が現れています。

  • 病院連絡回数:平均1.5回 → 1.4回に改善

  • 病院決定時間:平均7.9分 → 5.7分に短縮(2.2分の改善)

  • 現場滞在時間:平均21.0分 → 20.8分に短縮(0.2分の改善)

  • 照会2回以内に受入が決まった事案:88.6% → 89.7%に増加

  • システム利用率:98.3%

  • 救急搬送人員:12,145人 → 12,586人

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現場からは「文字の把握がしやすく、情報把握の時間短縮に効果的」「これまでの救急活動と比べて様々なことが簡略化された」といった声が上がる一方、「事前に情報送信いただいている事案でも、プレゼンが丁寧すぎる場合はもう少し簡略化されて構わない」といった運用上の率直な意見も出ています。

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<見えてきた課題と今後>

確かな成果を生む一方で、運用を進める中で見えてきた課題

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①現場滞在時間の短縮という壁
電話や病院選定にかかる時間は着実に短縮された一方、情報入力の手間や傷病者の高度化に伴い、現場滞在時間は依然として延伸傾向にあります。「情報共有はうまくいっている一方で、迅速化に思うような成果が出ていない部分もある」というのが、現場としての率直な実感です。

②各機器とのデータ連携
今後は、IoT対応の医療機器からのデータ自動取得により、救急隊員の入力負担をさらに軽減するとともに、蓄積された活動データを分析・検証に活用できる環境づくりが期待されています。現在取り組んでいるHigh Performance CPRにおいても、除細動器から取得したデータを活用し、心肺蘇生の質の分析や隊員教育への応用が進められています。


<DXのその先>

システムを単なる情報共有のツールで終わらせない次のステップ

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①救急隊のパートナーとしてのAI活用
さまざまな機器やシステムが連携できるようになってきたことを踏まえ、生成AIなどの新たな技術を活用し、救急隊員の判断や活動を支える「パートナー」としてのツールの実現にも期待しています。

②将来の救急体制づくり
広域で情報共有しているからこそ、自治体単独では見えなかった地域全体の課題を把握し、救急需要の傾向、地域ごとの課題などを分析して、将来の救急体制づくりを考えるなど、データを活用することで、これまで経験や感覚で捉えていた課題をより客観的に見ることができると考えています。


地域とともに成長する、DXの本質的な価値

山形市の事例は、現場発の課題意識が組織の壁を越えて市全体のビジョンへとつながり、さらに周辺自治体を巻き込んだ広域連携へと発展していく過程を示す好例です。

本ウェビナーでは、
すべての機能を最初から備えて、すべての関係機関が納得して、誰も困らない運用を設計してから始めるという「完璧なシステムを作らなければいけない」という意識を変え、まずは使ってみよう。という考えが重要であり、

「DXは、条件が整うのを待って始めるものではなく、一歩を踏み出すことが大切」 

「DXは、地域の課題を解決するために、ともに成長していくもの」

というメッセージが語られました。


(文責:TXP Medical株式会社 EMS Collection編集部)

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